中小企業の賃上げで使える助成金・補助金まとめ【2026年版】|賃金引上げを国が支援する全制度と申請手順

中小企業の賃上げで使える助成金・補助金まとめ【2026年版】 賃上げ・働き方改革

2024〜2026年にかけて、政府は継続的に最低賃金の引き上げを推進しており、中小企業にとって人件費増大は避けられない課題だ。しかし、賃上げを実施することで受給できる助成金・補助金を活用すれば、実質的な人件費負担を大幅に軽減できる。本記事では、賃上げと連動して受給できる主な制度をまとめて解説する。

結論と、いつまでに何をするか
賃上げ関連の助成金は、いずれも「賃金を上げる前」の手続きが分かれ目になる。最低賃金の改定は毎年10月ごろから地域ごとに順次発効するため、改定の前に自社の時給と最低賃金の差を確認し、助成金の計画届や交付申請を済ませておく必要がある。賃上げを先に実施してしまうと、対象外になる助成金が多い。

賃上げをきっかけに社会保険の加入者が増える会社も多い。社会保険の賃金要件(月額8.8万円)は2026年10月に撤廃され、企業規模の基準も2027年10月から段階的に引き下げられる予定だ。賃上げと社会保険の両面を同時に設計できるかどうかで、助成金の取りこぼしが大きく変わる。

時期 出来事 会社がやること
毎年10月ごろ〜 地域別最低賃金の改定が順次発効 改定前に時給と最低賃金の差額を確認し、助成金の事前申請を済ませる
2026年3月31日 キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」が終了 2026年4月以降の加入は後継コースを検討
2026年10月 社会保険の賃金要件(月額8.8万円)が撤廃 週20時間以上のパートを洗い出し直す
2027年10月 社会保険の企業規模要件が従業員数36人以上へ 該当する会社は保険料負担を試算し、賃上げ計画と一体で設計

※厚生労働省の公表情報にもとづく整理。最低賃金の具体的な金額と発効日は都道府県ごとに異なるため、各労働局の発表で確認してほしい。


賃上げ支援制度の全体像

制度名 支援内容 最大金額
業務改善助成金 設備投資+賃上げへの補助 最大600万円
人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース) 職場環境改善による離職率低下 上限80万円(賃金要件を満たす場合は100万円)
キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース) 非正規の賃金規定改定・賃上げ 1人あたり4万〜7万円(中小企業)
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース) 労働時間の短縮・年休促進と賃上げの両立 最大200万円(一定要件で最大720万円の加算あり)
中小企業向け賃上げ促進税制 賃上げ額の一定割合を税額控除 税額控除(控除限度あり)

「この課題にはこの制度」対応表

経営課題 向いている制度 ポイント
最低賃金の引き上げで時給を上げざるを得ない 業務改善助成金 設備投資とセット。賃上げの前に交付申請が必要
パートの賃金テーブルを底上げしたい キャリアアップ助成金 賃金規定等改定コース 賃金規定を増額改定し、計画を事前に届け出る
パートを戦力として定着させたい キャリアアップ助成金 正社員化コース 転換後の賃金支払い実績で申請する
賃上げと社会保険加入が重なる キャリアアップ助成金 短時間労働者労働時間延長支援コース 労働時間の延長や賃金増額とセットで支援を受ける
賃上げ後の離職を防ぎたい 人材確保等支援助成金 雇用管理制度の整備を支援
利益が出ていて法人税を抑えたい 賃上げ促進税制 助成金ではなく税額控除。併用の可否は税理士に確認

助成金は「どれか1つ」を選ぶものではなく、自社の課題ごとに組み合わせて使うものだ。たとえば、設備投資が必要な部署には業務改善助成金、パート全体の底上げにはキャリアアップ助成金、という分け方ができる。なお、同じ労働者・同じ経費に対して複数の制度を重ねられるとは限らないため、併用の可否は制度ごとの要領で確認が必要になる。

制度の違いを3つの軸で比べる

項目 業務改善助成金 キャリアアップ助成金 賃上げ促進税制
性格 助成金(設備投資+賃上げ) 助成金(非正規の処遇改善) 税額控除
主な対象 事業場内最低賃金の引き上げ パート・有期・契約社員 賃金総額の増加
事前の手続き 交付申請(実施前) キャリアアップ計画の届出(実施前) 決算・申告時に適用
注意点 設備投資の内容が経費の対象か 賃金規定・就業規則の整備 赤字企業は控除を受けにくい

業務改善助成金:賃上げ+設備投資の最強コンボ

業務改善助成金は「生産性を高める設備投資を実施し、それと同時に賃金を引き上げた中小企業」に支給される助成金だ。単純な賃上げ助成ではなく、設備投資(業務改善)を条件とする点が特徴。

支給額の仕組み

コース 事業場内最低賃金の引上げ額 助成上限額(引き上げる労働者数により変動)
50円コース 50円以上 30万円〜130万円
70円コース 70円以上 40万円〜300万円
90円コース 90円以上 90万円〜600万円

※令和8年度の区分(厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」)。上限額は引き上げる労働者数に応じて決まり、10人以上の区分は特例事業者が対象です。助成率は事業場内最低賃金が1,050円未満で4/5、1,050円以上で3/4です。最新の交付要綱で必ず確認してください。

対象となる設備投資の例

  • 機械・工具の更新
  • ITシステム・ソフトウェアの導入
  • 保育施設の設置(従業員の子育て支援)
  • 人材育成研修プログラムの実施

申請の流れは「事前相談→計画申請→設備投資実施→賃上げ実施→支給申請」で、必ず事前に都道府県労働局への申請が必要だ。

業務改善助成金の要件の型と流れ

業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資などを行う中小企業・小規模事業者を支援する。代表的な要件の型は次のとおりだ。

  • 事業場内最低賃金が、その年度の地域別最低賃金未満であること
  • 事業場内最低賃金を、コースごとに定められた額以上引き上げること
  • 生産性向上に資する設備投資、コンサルティング導入、人材育成・教育訓練などを行うこと
  • 交付決定を受けてから設備を導入し、賃金を引き上げること

とくに重要なのは4つ目で、交付決定の前に設備を購入したり、賃金を引き上げたりした場合は、対象外になるのが原則だ。最低賃金の改定が公表されてから慌てて動くのではなく、改定の前から計画を立てておく必要がある。

順番 手続き 期限の考え方
1 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額を確認 最低賃金の改定が発表されたらすぐ
2 交付申請書の提出(労働局) 設備導入・賃上げの前
3 交付決定 決定前の購入・賃上げは対象外
4 設備導入と賃上げの実施 事業実施期間内
5 事業実績報告・支給申請 実施後、定められた期間内

※期間や必要書類は年度ごとに異なる。最新の交付要綱で確認してほしい。

対象となる経費の線引きは業務改善助成金の対象経費・設備一覧に整理している。申請の流れの詳細は業務改善助成金の申請方法を、最低賃金の改定時の動き方は最低賃金が上がったら業務改善助成金はどうなる?を参照してほしい。


キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

非正規労働者(パート・アルバイト・有期契約社員)の賃金規定を改定し、3%以上の賃上げを実施した際に受給できる助成金だ。

支給額

  • 対象労働者1人あたり:賃上げ率と企業規模に応じて設定(令和8年度の目安は下表を参照)
  • 1回の申請で複数名分をまとめて申請可能

申請要件

  • キャリアアップ計画の事前届出(ハローワーク)
  • 就業規則・賃金規程の改定
  • 取組後6か月分の賃金支払いの実績

就業規則の改定・ハローワークへの計画届出を先行させることが重要。後から準備しようとすると申請要件を満たせないことが多い。

令和8年度の支給額の目安

昇給率(基本給の増額) 中小企業(1人あたり) 大企業(1人あたり)
3%以上4%未満 4万円 2.6万円
4%以上5%未満 5万円 3.3万円
5%以上6%未満 6.5万円 4.3万円
6%以上 7万円 4.6万円

※厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年4月8日)」の区分。職務評価の活用や昇給制度の新設による加算(1事業所あたり中小企業20万円・大企業15万円)もあるため、詳細は最新の支給要領で確認してほしい。

賃金規定等改定コースの要件の詳細は賃金規定等改定コースの申請方法で解説している。

正社員化コースで賃上げと定着をセットにする

賃上げと同時に非正規雇用のスタッフを正社員へ転換する場合は、正社員化コースが使える。公表されている令和8年度の目安は、中小企業で有期から正規への転換が重点支援対象者で80万円、その他は40万円、無期から正規への転換は重点支援対象者で40万円、その他は20万円だ。要件や転換後の賃金支払いの扱いはキャリアアップ助成金 正社員化コースの申請方法で確認できる。

社会保険の加入が重なる場合:短時間労働者労働時間延長支援コース

賃上げと同時に、パートの労働時間を延ばして社会保険へ加入させる場合は、短時間労働者労働時間延長支援コースが候補になる。令和8年度の公表情報では、1人あたり小規模企業で最大75万円(1年目50万円・2年目25万円)、中小企業で最大60万円(1年目40万円・2年目20万円)とされている。以前の社会保険適用時処遇改善コースは2026年3月末で終了しており、後継にあたるコースだ。

コース全体の使い分けはキャリアアップ助成金の全コース比較とキャリアアップ助成金とはが参考になる。


中小企業向け賃上げ促進税制(2026年版)

助成金・補助金ではないが、賃上げ企業への税制優遇措置として「賃上げ促進税制」がある。

概要

賃金総額を一定以上増加させた場合に、増加額の一定割合を法人税・所得税から控除できる。控除率や要件は税制改正で見直されるため、国税庁・中小企業庁の最新資料で確認してほしい。

2026年度版のポイント

  • 控除率・上限・繰越控除の可否は、企業規模や賃上げ率などで区分される
  • 適用の可否は、顧問税理士に確認する

税額控除は助成金と異なり「毎年続ける」インセンティブになるため、長期的な賃上げ継続のモチベーション維持に効果的だ。


賃上げと助成金のベストな組み合わせ戦略

1〜2名の非正規スタッフを正社員化し、さらに全スタッフの賃金を引き上げた場合:

制度 受給見込み額
キャリアアップ助成金(正社員化) 160万円(重点支援対象者・有期→正規2人分。80万円×2)
キャリアアップ助成金(賃金規定改定) 20万〜35万円(5人分。1人4万〜7万円)
業務改善助成金(70円コースの場合) 設備投資額×助成率(3/4または4/5)と上限額(40万〜300万円)の低いほう
賃上げ促進税制(法人税控除) 税額により変動
合計 キャリアアップ助成金だけで180万〜195万円(業務改善助成金・税額控除は別途)

賃上げコストを助成金で回収しながら、同時に人材定着率を高める「好循環」を作り出せる。


賃上げ助成金申請の注意点

計画届出の事前提出が必須

多くの雇用系助成金は「事業実施前にハローワークへ計画書を提出」することが申請要件だ。賃上げを実施してから申請しようとしても受付けてもらえないケースがある。

就業規則への明文化

賃金規程の改定は就業規則への反映と労働基準監督署への届出が必要。10名以上の事業所では届出義務があり、守らないと申請が受理されない。

賃上げ助成金の申請スケジュールと手順

賃上げ関連の助成金は、実施前の手続きが多い。次の順番で進めると、取りこぼしを防ぎやすい。

  1. 現状の把握:全従業員の時給と、地域別最低賃金との差を一覧にする
  2. 賃上げ計画の作成:誰を、いつ、どれだけ上げるかを決める
  3. 制度の選択:業務改善助成金、キャリアアップ助成金などの中から、課題に合うものを選ぶ
  4. 就業規則・賃金規程の改定:労働基準監督署への届出もあわせて行う
  5. 計画届・交付申請:賃上げや設備導入の前に、労働局へ提出する
  6. 実施と記録:賃金台帳・出勤簿・領収書などを整理する
  7. 支給申請:定められた期間内に提出する
よくある失敗
計画届を出す前に賃上げを実施してしまう、賃金規程を改定せず口頭で時給を変える、賃金台帳が整っていない、という3つが典型的だ。賃上げ後に賃金を下げると返還を求められる場合もあるため、賃上げした後に賃金を下げたら助成金はどうなる?も確認しておきたい。

賃上げ助成金のよくある質問(FAQ)

Q. 賃上げをすでに実施してしまいました。助成金は申請できますか?

多くの助成金は実施前の届出や交付決定が条件のため、実施後の申請は難しい場合がある。制度ごとの要領で確認し、労働局に相談したい。

Q. 業務改善助成金とキャリアアップ助成金は同時に使えますか?

対象経費や対象労働者が重複しなければ、組み合わせられる可能性がある。併用可否は制度ごとの要領で確認が必要だ。

Q. パートの時給だけを上げても対象になりますか?

個別の時給変更だけでは対象外になる制度がある。賃金規定(賃金テーブル)の改定をともなうかが分かれ目になることが多い。

Q. 従業員が数人の会社でも使えますか?

業務改善助成金やキャリアアップ助成金は、小規模な会社も対象になる。企業規模によって金額の区分が異なる場合がある。

Q. 金額や要件はどこで確認できますか?

厚生労働省の各助成金のページと、管轄の労働局が配布する最新の支給要領・交付要綱で確認する。年度ごとに改定される。


まとめ

2026年も最低賃金の引き上げ圧力が続く中、賃上げを「コストアップ」ではなく「助成金受給のトリガー」として捉えることで、実質的な人件費負担を大幅に下げられる。業務改善助成金・キャリアアップ助成金・賃上げ促進税制を組み合わせた総合戦略が、賃上げ時代を乗り切るための正攻法だ。

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