結論、就業規則がなくても申請できる助成金は存在するが、多くの雇用関係助成金は就業規則(または労働条件を明文化した規程類)の整備を実質的な前提としている。労働基準法上、就業規則の作成・届出義務があるのは常時10人以上の労働者を使用する事業場だが、10人未満で作成義務がない会社であっても、助成金の要件を満たすためには規程の整備が必要になる場面が多い。以下でケース別に整理する。
結論:作成義務の有無と助成金の要件は別問題
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成・届出義務があると定めている。裏を返せば、10人未満の事業場には法律上の作成義務はない。しかし、この「作成義務」と「助成金の受給要件」はイコールではない点に注意が必要である。
多くの雇用関係助成金は、賃金・労働時間・休暇などの労働条件を明文化した規程が整備されていることを審査で確認する。就業規則の作成義務がない10人未満の会社であっても、助成金を申請する際には、対象となる制度に応じた規程の整備を求められることが一般的である。「義務がないから作らなくてよい」と「助成金の対象にならなくてよい」は別の判断軸として考える必要がある。
なぜ就業規則が助成金の審査で重視されるのか
助成金の多くは、賃金の引き上げ・正社員転換・両立支援など、労働条件の変更や改善を伴う取り組みを支援する制度である。そのため、変更前後の労働条件を客観的に確認できる書面がなければ、審査側は取り組みの実態を確認できない。ここに就業規則が重視される理由がある。
- 賃金規定の変更を伴う助成金(賃上げ系など)では、変更前後の規定を比較する必要がある
- 正社員転換を伴う助成金では、転換前後の雇用区分ごとの労働条件を規定で明確にする必要がある
- 休暇制度の新設・拡充を伴う助成金では、制度の内容を規程として明文化する必要がある
就業規則の作成・改定が受給の鍵になる背景は助成金の「就業規則」作成・改定が受給の鍵!2026年版完全ガイド|助成金に必要な就業規則の要件と整備の手順で詳しく解説している。
従業員10人未満の会社が取りうる選択肢
10人未満で就業規則の作成義務がない会社の場合、対応の選択肢は主に次の3つに整理できる。
| 選択肢 | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 就業規則を新規に作成する | 労働基準法の作成義務対象ではないが、任意で作成・届出する | 今後従業員を増やす予定がある/複数の助成金を継続活用したい |
| 労働条件通知書・雇用契約書を整備する | 就業規則までは作らず、個別の労働条件を書面で明確にする | 対象人数が少なく、当面10人未満が続く見込み |
| 助成金ごとに必要な規程だけ個別に整備する | 申請する制度が求める規程(賃金規定・休暇規定など)のみ作成する | 特定の助成金だけをまず活用したい |
どの選択肢が適切かは、申請したい助成金の種類や、将来的な採用計画によって変わる。就業規則を作らない場合でも、労働条件通知書や雇用契約書の内容が実態と一致しているかどうかは、多くの助成金で共通して確認されるポイントである。
就業規則以外に確認される書類
就業規則の有無だけでなく、助成金の審査では以下のような書類もあわせて確認されることが多い。
- 雇用契約書・労働条件通知書
- 賃金台帳・出勤簿(タイムカード等)
- 36協定などの労使協定
- 今後の採用計画表
必要書類の全体像は助成金申請に必要な書類一覧と準備のコツ【2026年版】|担当者が教える事前準備チェックリストにまとめている。要件を満たしているかどうかを事前にチェックする視点は助成金申請における「支給要件」の確認方法【2026年版】|申請前に必ずチェックすべき5つの要件と確認手順も参考になる。
就業規則の整備が間に合わない場合の進め方
助成金の申請を検討し始めたタイミングで就業規則が未整備だと分かった場合、次のような順序で進めると効率的である。
- 1. 申請を検討している助成金が、どの規程の整備を求めているかを確認する
- 2. 現在の労働条件(賃金・労働時間・休暇等)の実態を棚卸しする
- 3. 就業規則を新規作成するか、必要な規程のみ個別に整備するかを判断する
- 4. 規程の内容と実際の運用に矛盾がないかを確認する(規程だけ整えても運用が伴わないと審査で指摘されることがある)
- 5. 整備が完了した時点で、あらためて対象になる助成金を専門家に確認する
就業規則の整備を後回しにしたまま申請準備だけを進めてしまうと、書類の整合性が取れずに審査でつまずきやすい。規程の整備と申請準備は並行して進めるのが望ましい。
就業規則を新規作成する場合に決めておきたい項目
10人未満の会社が任意で就業規則を作成する場合、最低限次のような項目を整理しておくと、助成金の審査でも指摘を受けにくい規程になりやすい。
- 労働時間・休憩・休日に関する規定(始業終業時刻、所定労働時間、休日の付与方法)
- 賃金に関する規定(基本給の決め方、諸手当、割増賃金の計算方法、締め日・支払日)
- 休暇に関する規定(年次有給休暇、育児・介護休業、慶弔休暇など)
- 退職・解雇に関する規定
- 服務規律・懲戒に関する規定
これらの項目は、正社員転換や賃上げ、両立支援など助成金の種類によって重視される箇所が異なる。あらかじめ「どの助成金を目指すか」を意識しながら規程を整備すると、後から追加改定する手間を減らせる。
パート・アルバイトが多い会社が注意したい点
10人未満の小規模な会社でも、正社員に加えてパート・アルバイトを雇用しているケースは多い。就業規則を整備する際には、正社員用の規程だけでなく、パート・アルバイト用の就業規則(雇用形態別の規程)を別途整備しているかどうかも確認したい。
雇用形態ごとに労働条件が異なるにもかかわらず、正社員用の規程しか存在しない場合、パート・アルバイトを対象とした助成金の審査で「対象者の労働条件が規程上明確になっていない」と判断されるおそれがある。雇用形態が複数ある会社ほど、規程の整備範囲を広めに検討しておく必要がある。
就業規則がある場合とない場合の申請しやすさの違い
参考として、就業規則の有無による一般的な傾向を整理する。あくまで傾向であり、個別の判断は制度ごとの要件による。
| 状況 | 申請しやすさの傾向 |
|---|---|
| 就業規則あり・実態と一致 | 比較的スムーズに審査書類をそろえやすい |
| 就業規則あり・実態と乖離 | 規程と実態の不一致を指摘されるリスクがある |
| 就業規則なし・10人未満・雇用契約書は整備済み | 制度によっては個別規程の追加整備で対応可能 |
| 就業規則なし・雇用契約書等も未整備 | 複数書類を並行して整備する必要があり時間がかかりやすい |
専門家に相談するという選択肢
就業規則の要否や、どの規程をどこまで整備すればよいかは、申請したい助成金の種類によって細かく異なる。自己判断で規程を整備した結果、審査で必要な項目が抜けていたというケースも少なくない。助成金コンサルの無料相談では、現在の規程整備状況をヒアリングしたうえで、優先的に整備すべき書類と申請可能な制度を整理してもらうことができる。10人未満で作成義務がない会社ほど、何をどこまで整えるべきか専門家の視点で確認しておくと無駄が少ない。
よくある質問(FAQ)
Q1. 従業員10人未満なら就業規則は絶対に不要ですか?
A. 労働基準法上の作成・届出義務は生じないが、助成金の受給を目指す場合は制度に応じた規程の整備が実質的に必要になることが多い。
Q2. 就業規則の代わりに雇用契約書だけで申請できる助成金はありますか?
A. 制度によっては雇用契約書・労働条件通知書の整備で足りる場合もある。どの書類が必要かは申請する制度ごとに異なるため個別確認が必要である。
Q3. 就業規則を作れば必ず助成金の審査を通過できますか?
A. いいえ、就業規則の整備は要件の一つに過ぎない。労働関係法令の遵守状況や、他の必要書類、対象者の要件など複数の条件を満たす必要がある。
Q4. 就業規則の作成には時間がかかりますか?
A. 会社の状況や規程の内容によって異なる。実態の棚卸しから始めると時間を要することもあるため、余裕をもって準備を始めることが望ましい。
Q5. 就業規則を作成すれば労働基準監督署への届出も必要ですか?
A. 常時10人以上の事業場は届出義務があるが、10人未満で任意に作成した場合の届出の要否は状況により異なる。具体的な取り扱いは労働基準監督署や専門家に確認するのが確実である。
まとめ|助成金・補助金の申請はTrue Partnersに相談を
就業規則の作成義務は常時10人以上の事業場に生じるが、10人未満で義務がない会社でも、助成金の受給を目指すなら規程の整備が実質的に必要になる場面が多い。どの書類をどこまで整えるべきかは制度ごとに異なるため、自社にとって現実的な準備計画を知りたい場合は、専門家によるシミュレーションを活用するのも一つの方法だ。
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