固定残業代(みなし残業代)を導入している企業は、助成金申請時に賃金額の算定方法や割増賃金の適正性を特に厳しく確認されます。結論として、固定残業代がある場合の助成金審査では「①固定残業時間を超えた分の割増賃金を追加で支払っているか」「②就業規則・雇用契約書に固定残業代の内訳(金額・時間数)が明記されているか」「③実際の残業時間が固定残業時間を著しく超過していないか」の3点が重点的にチェックされます。この記事では、固定残業代がある事業所が助成金を申請する際に注意すべきポイントを、審査の視点から解説します。
なぜ固定残業代は助成金審査で問題になりやすいのか
助成金の多くは、賃金の適正な支払いを前提として設計されています。固定残業代制度自体は労働基準法上認められた仕組みですが、運用が不適切だと「未払い残業代が発生している状態」と判断され、助成金の支給要件である「労働関係法令の遵守」を満たさないと判断されるリスクがあります。
特に次のようなケースは審査で問題視されやすい典型例です。
- 固定残業代に含まれる時間数が就業規則や雇用契約書に明記されていない
- 固定残業時間を超えて働いた分の割増賃金が支払われていない
- 基本給と固定残業代の区分が曖昧で、割増賃金の算定基礎額が不明確
- みなし残業代の金額が最低賃金を下回る計算になっている
助成金の審査担当者は、賃金台帳・出勤簿・就業規則を突合して、これらの矛盾がないかを確認します。矛盾が見つかると、助成金の対象外と判断されるだけでなく、労働基準監督署への情報連携が行われる可能性もゼロではありません。
固定残業代制度の適法要件チェックリスト
固定残業代を導入している企業が助成金を申請する前に、以下の点を確認しておくことが重要です。
| チェック項目 | 確認内容 | 未対応の場合のリスク |
|---|---|---|
| 金額の明記 | 固定残業代の金額が契約書・給与明細に明記されているか | 割増賃金の算定基礎が不明確と判断される |
| 時間数の明記 | 固定残業代に含まれる時間数(例:月20時間分)が明記されているか | 超過分の未払いが疑われる |
| 超過分の精算 | 固定残業時間を超えた分の割増賃金を別途支払っているか | 未払い残業代ありと判断され審査に影響 |
| 基本給との区分 | 基本給と固定残業代が明確に分離されているか | 割増賃金の計算根拠が崩れる |
| 就業規則との整合性 | 就業規則に固定残業代の定めがあるか | 契約書と規則の不一致で不備扱い |
これらが未整備のまま助成金を申請すると、審査段階で追加資料の提出を求められたり、最悪の場合は不支給となるケースもあります。
助成金の種類別|固定残業代がある場合の注意点
助成金の種類によって、固定残業代の扱いに関する審査の重点が異なります。
| 助成金の種類 | 固定残業代に関する主な確認ポイント |
|---|---|
| キャリアアップ助成金(正社員化コース等) | 転換前後の賃金総額比較で固定残業代を含めた実質賃金の上昇が確認されるか |
| 業務改善助成金 | 賃上げ後の時間給に固定残業代が不当に含まれていないか |
| 両立支援等助成金 | 対象労働者の賃金台帳における固定残業代の計算根拠の明確さ |
| キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース) | 賃金規定改定の前後で固定残業代を除いた基本部分がきちんと増額されているか |
例えばキャリアアップ助成金の正社員化コースでは、転換前後の賃金総額を比較する際に、固定残業代を賃上げの水増しとして計上していないかが厳しく見られます。基本給部分の実質的な引き上げがないまま固定残業代の金額だけを操作しても、審査を通過するのは困難です。
実務上よくある失敗パターン
固定残業代がある企業の助成金申請でよく見られる失敗パターンを紹介します。
- 1. 固定残業代を賃上げとして計上してしまう:基本給を上げずに固定残業代の金額だけを増額し、賃金総額の引き上げとして申請してしまうケース。制度の趣旨に反すると判断されやすい。
- 2. 超過分の未払いに気づかないまま申請する:出勤簿上は固定残業時間を超えているのに、割増賃金の追加支払いがないまま賃金台帳を提出してしまう。
- 3. 就業規則の改定が漏れている:雇用契約書だけ固定残業代の内訳を変更し、就業規則の改定・届出を忘れているケース。
- 4. みなし残業代が最低賃金を下回る:固定残業代を差し引いた実労働時間分の時給換算額が最低賃金を下回っており、そもそも労働条件として問題があるケース。
これらはいずれも、助成金申請の前段階である「労務管理の適正化」に関わる問題です。助成金の申請準備を機に、固定残業代制度そのものを見直す企業も少なくありません。
固定残業代がある場合の申請準備ステップ
固定残業代を導入している事業所が助成金を申請する際は、次の順序で準備を進めると審査での指摘を減らせます。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| STEP1 | 就業規則・雇用契約書の固定残業代条項を確認し、金額・時間数の明記を確認 |
| STEP2 | 過去数ヶ月分の出勤簿と賃金台帳を突合し、固定残業時間の超過有無を確認 |
| STEP3 | 超過分の未払いがあれば、申請前に精算・是正を行う |
| STEP4 | 助成金の算定に使う賃金額から固定残業代の扱いを制度要件に沿って整理する |
| STEP5 | 専門家によるダブルチェックを受けたうえで支給申請書を提出する |
特にSTEP3の是正を後回しにすると、審査段階で発覚した際に申請自体が振り出しに戻るリスクがあるため、申請前の是正が推奨されます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 固定残業代があると助成金は申請できませんか?
A. 制度自体が適法に運用されていれば申請は可能です。問題になるのは、固定残業時間を超えた分の未払いや、内訳が不明確なケースです。適正に運用されていることを書類で示せれば審査上の障害にはなりません。
Q2. みなし残業代を賃上げの原資として使ってもよいですか?
A. 制度によっては固定残業代の増額を賃金引き上げと認めないケースがあります。基本給部分の引き上げを伴う形で計画することが望ましいです。
Q3. 固定残業時間を超えた分はどう計算すればよいですか?
A. 固定残業時間を超えた実労働時間分について、通常の割増賃金計算方法(時間単価×1.25等)で追加支給する必要があります。自己判断が難しい場合は社労士等の専門家に確認することをおすすめします。
Q4. 就業規則の改定が間に合わない場合はどうすればよいですか?
A. 助成金の計画届提出前に就業規則の改定・労働基準監督署への届出を完了させておく必要がある制度が多いため、スケジュールに余裕を持って着手することが重要です。
Q5. 固定残業代の是正を専門家に依頼するメリットは何ですか?
A. 労務管理の適正化と助成金申請を同時に進められる点が大きなメリットです。専門家によっては、是正のアドバイスから申請代行までを一貫してサポートしてくれる場合もあります。
まとめ|助成金・補助金の申請はTrue Partnersに相談を
固定残業代がある事業所は、金額・時間数の明記と超過分の精算が助成金審査突破の鍵になります。賃上げの原資として固定残業代を安易に使うと審査で不利になりやすいため、基本給部分の見直しとあわせた準備が重要です。制度理解に不安がある場合は専門家への相談も検討しましょう。
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