106万円の壁で新たに生じる社会保険料負担は、キャリアアップ助成金の短時間労働者労働時間延長支援コース(2026年3月末で終了した社会保険適用時処遇改善コースの後継)などで軽減できる可能性があります。労働時間の延長・賃金の増額・フルタイム転換・省力化投資という4つの対応策と、それぞれに使える業務改善助成金・人材確保等支援助成金の対応を表で整理しました。
社会保険適用拡大の概要とこれまでの経緯
社会保険の適用対象は、企業規模の要件緩和とともに段階的に拡大されてきました。従業員数が一定規模を超える企業では、週の所定労働時間や賃金月額などの要件を満たす短時間労働者も、厚生年金・健康保険への加入が必要になります。
これにより企業側には、対象となる従業員分の社会保険料(労使折半分の事業主負担分)が新たに発生し、特にパート・アルバイト比率の高い小売・飲食・介護業界などでは、人件費への影響が大きくなっています。
106万円の壁とは何か
「106万円の壁」とは、一定要件を満たす短時間労働者が社会保険の加入対象となる年収の目安を指す通称です。この壁を超えて働くと本人の手取りが一時的に減少する可能性があるため、労働者側が就業調整(働く時間を意図的に減らす)を行う要因にもなっており、企業にとっては人手不足の一因にもなり得る問題です。
企業としては、以下のような対応が求められます。
- 社会保険加入対象者の正確な把握
- 保険料負担増加分の資金計画への織り込み
- 従業員の手取り減少を補う賃金設計の検討
- 就業調整による人手不足への対策
活用できる主な支援制度
| 制度名 | 概要 |
|---|---|
| キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース) | 短時間労働者を新たに社会保険に加入させる際に、労働時間の延長や賃金の増額を行った事業主を助成 |
| 業務改善助成金 | 生産性向上の設備投資と賃金引上げをセットで行う事業主への助成 |
| 両立支援等助成金 | 短時間労働者の処遇改善に関連する取り組みを支援する場合がある |
| 人材確保等支援助成金 | 労働条件の魅力向上に取り組む事業主への支援 |
短時間労働者労働時間延長支援コースは、短時間労働者を新たに社会保険の被保険者とする際に、労働時間の延長(2〜5時間以上)と賃金の増加を組み合わせた取り組みを行った事業主に助成する仕組みで、106万円の壁対応に直結する制度です。中小企業で1人あたり1年目40万円・2年目20万円(小規模企業は50万円・25万円、大企業は30万円・15万円)が公表されています(厚生労働省 令和8年度版)。旧「社会保険適用時処遇改善コース」は2026年3月末で終了しています。
企業が検討すべき対応の選択肢
社会保険適用拡大への対応方法は、企業の状況によっていくつかのパターンに分かれます。
- 1. 労働時間を延長し手取り減少を相殺する:週の労働時間を増やして収入を維持する
- 2. 賃金を増額し保険料負担分を上乗せする:時給アップで手取り減少をカバーする
- 3. フルタイム転換を促進する:短時間労働からフルタイムへの転換で処遇を安定させる
- 4. 業務効率化で人件費増加分を吸収する:省力化投資による生産性向上
助成金はこれらの取り組みを実施する際の資金負担を軽減する役割を果たすため、対応方針を検討する段階から助成金活用を組み込んでおくことが望ましいです。
申請時に注意すべきポイント
社会保険適用拡大関連の助成金は、比較的新しい制度であるため、要件や様式が改定されるケースがあります。申請にあたっては以下の点に注意が必要です。
- 制度の対象要件(企業規模、対象労働者の要件)を最新情報で確認する
- 賃金増額等の取り組みを助成金申請前に実施していないか(事前の計画届提出が必要な制度が多い)
- 就業規則・賃金規程の整備が要件となっている場合がある
- 社会保険労務士など専門家との連携で手続きミスを防ぐ
特に計画届の提出前に取り組みを開始してしまうと助成対象外になるケースが多いため、着手前に必ず制度の手続き順序を確認することが重要です。
中長期的な人事戦略としての位置づけ
社会保険適用拡大への対応は、単なる一時的なコスト増加への対処にとどまらず、従業員の処遇改善・定着率向上につながる中長期的な人事戦略として捉えることもできます。助成金を活用しながら賃金体系や労働時間の見直しを行うことで、人手不足時代における人材確保の競争力強化にもつなげられます。
まとめ:制度変化を助成金で乗り越える
社会保険適用拡大による負担増は多くの中小企業にとって避けられない課題ですが、キャリアアップ助成金の短時間労働者労働時間延長支援コースをはじめとする支援制度を活用することで、負担を軽減しながら従業員の処遇改善にもつなげることが可能です。
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